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「産業医に相談しても、話を聞いてくれるだけで終わった」「高ストレス者が出たのに、産業医面談の後も職場は何も変わらない」——人事担当者やマネージャーから、こうした声をよく聞きます。
産業医が「役に立たず」に見えるとき、その多くは産業医個人の能力の問題ではありません。産業医制度そのものが持つ構造的な限界と、企業側のフロー設計の不足が重なって起きています。
この記事では、産業医が「役に立たず」と感じやすい5つの理由を制度の視点から整理し、産業医を正しく活用する方法、そして産業医面談の「その先」で企業がとれる具体策まで解説します。
まず確認しておきたいのは、「産業医が役に立たず」と感じる声は決してまれではないという事実です。厚生労働省の「産業保健活動総合支援事業」の調査では、産業医の活動に対して企業側が「十分活用できていない」と回答する割合は、中小企業を中心に依然として高い水準にあります。
「役に立たず」という感覚の背景には大きく2つの構造があります。①産業医の役割に関する期待と制度設計のズレ、②面談後のフロー設計が企業側にないこと——この2点が重なったとき、「相談しても何も変わらない」という体験が生まれます。
産業医が「役に立たず」に感じられる最大の原因は、産業医に「治療や解決」を期待することです。産業医は医師ですが、主治医ではありません。制度上の役割は以下に限定されています。
つまり、産業医の役割は「発見・意見提供」までです。「解決する」のは企業側の設計です。この役割分担を理解せずに「産業医が役に立たず」と感じているとしたら、それは期待値のズレから来ている可能性が高いです。
労働安全衛生法に基づく産業医面談は、高ストレス判定が出た社員が「自ら申し出る」ことで始まります。厚生労働省の調査では、高ストレス者のうち面談を申し出る割合は数%にとどまるという報告もあります。「会社に知られたくない」「弱いと思われたくない」というスティグマが、本人が面談を希望しない最大の理由です。制度が機能しないのは、産業医が役に立たずだからではなく、そもそも面談が始まらないからです。
産業医面談が実現しても、「しばらく様子を見ましょう」という言葉で終わるケースが多いという声があります。これは産業医が役に立たずというわけではなく、面談後の対応フローが企業側に設計されていないことが問題です。産業医が意見書を提出しても、それを受けて人事がどう動くかのプロセスが決まっていなければ、意見は実行されません。
産業医は企業が選任・報酬を支払います。このため、「どうせ会社の立場で話す人でしょ」と社員が感じ、本音で話せないことがあります。産業医が役に立たずに見えるのではなく、信頼関係が構築されていない状態で面談に臨んでいるために、本質的な課題が表面に出てこないのです。
50人以上の事業場に選任義務があるものの、多くの中小企業では嘱託産業医(月数時間の契約)が一般的です。接触頻度が低いと、社員は「顔を知らない医師に相談する」状態になり、産業医との関係性が育まれません。役に立たずと感じるより以前に、存在感がない状態が続いています。
「話を聞いてほしい」「気持ちをわかってほしい」という社員のニーズに対して、産業医は就業適合性の評価と意見提供を行う立場です。傾聴・感情サポートはカウンセラーやEAP(従業員支援プログラム)の領域です。機能と役割が異なるリソースに同じことを期待するとき、「役に立たず」という感覚が生まれます。
以下の5項目を確認してください。チェックがつかない項目が多いほど、「産業医が役に立たず」と感じる構造的リスクが高い状態です。
□ 面談後に「産業医意見書」を受け取るフローが定められている
□ 高ストレス者に対して、面談申出のハードルを下げる説明を毎年行っている
□ 産業医の名前と顔を社員が知っている(社内周知ができている)
□「産業医面談→就業制限→配置転換」の対応フローを人事が把握している
□ 産業医との連携窓口(人事・衛生管理者)が明確になっている
※ 3つ以上チェックできない場合:産業医の機能不全ではなく、企業側のフロー設計を見直すことが先決です。
「役に立たず」と感じているからといって、産業医を不要とすることはできません。50人以上の事業場では法定義務であることはもちろん、選任すること自体にリスク管理の意味があります。
問題は産業医の存在ではなく、「産業医に何を期待するか」の設計です。産業医は就業適合性判断・意見書・職場巡視のプロです。その機能を正しく活用しながら、産業医が「できないこと」は別のリソース(EAP・カウンセラー・管理職研修)で補完する。この設計ができている企業では、産業医が役に立たずという感覚は生まれません。
産業医面談が「実施した記録」で終わらないよう、面談前に対応フローを合意します。「就業制限の意見が出た場合は○日以内に業務調整する」「医療機関への受診推奨が出た場合は上司がどう関わるか」——これをシナリオごとに決めておくことで、意見書が動き出せる状態になります。
面談申出率を上げるために有効なのは、「申し出が人事評価に影響しない」「結果が上司に直接伝わらない」という安心感を繰り返し伝えることです。ストレスチェック実施後に人事から全社員へ向けたメッセージを出すだけでも、申出ハードルが下がるという現場の声があります。
産業医が対応できない「感情サポート」「日常的な相談窓口」「継続的なフォロー」の領域は、EAP(従業員支援プログラム)や社内カウンセラー、ラインケア研修を受けた管理職が担います。この補完設計があれば、産業医は本来の機能(就業適合性判断)に専念でき、役に立たずという状況は起きにくくなります。
産業医面談が必要になる状態の多くは、ある日突然起きるのではなく、数ヶ月かけて積み上がります。「集中力が落ちた」「朝が重い」「食欲がない」——こうした前駆症状の段階で介入できれば、面談に至る前に状態を改善できます。
近年の研究で、腸と脳は「腸脳相関(Gut-Brain Axis)」と呼ばれる双方向の神経・ホルモン回路で繋がっていることが明らかになっています。意欲・感情の安定・ストレス耐性に関わる神経伝達物質「セロトニン」の約90%は腸で産生されます。慢性ストレスや睡眠不足が続くと腸内環境が悪化し、セロトニン産生量が低下します。この変化は、メンタルヘルスの数値が悪化するより先に起きています。
た、腸内細菌とストレスホルモン(コルチゾール)の関係も研究されており、腸内環境の状態が視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸を通じてストレス反応に影響することが示されています。腸を整えることは、ストレス反応そのものを緩和する予防策になりえます。
出典:Mayer et al., Journal of Clinical Investigation 2015(腸脳相関・HPA軸)
ここが最初の介入ポイント
セロトニン産生量の低下
就業制限・受診推奨
ストレスチェックと産業医面談は④⑤の段階を捉えます。①②③の段階で腸内環境・食環境・睡眠を整えることは、産業医に「役に立たず」と感じる状況そのものを減らす予防投資です。
産業医が「役に立たず」に見える理由は、産業医個人の問題ではなく、制度の設計目的と企業の期待値のズレにあります。産業医は「意見を出す専門家」であり、「解決を実行する立場」ではありません。面談後のフローを整え、産業医が「できないこと」を別リソースで補完することで、産業医は本来の機能を発揮できます。
その上でもう一段踏み込むなら、産業医面談が必要になる前の段階——腸内環境・睡眠・食環境という「体の土台」を整えることが、職場全体のメンタルヘルスコストを下げる最も費用対効果の高い予防策です。
今日からできる一手は「産業医活用チェックリスト(本記事掲載)」で現状の5項目を確認することです。チェックできない項目が企業側の次のアクションを教えてくれます。
5つのNGを避けるだけで、産業医の機能が劇的に改善します。制度ではなく、使い方の問題です。
産業医面談の内容・その社員が高ストレス判定だったという事実は、本人の同意なく他者に伝えてはなりません。うっかりチームメンバーに「あの人、産業医と話してたよ」と伝えるだけでも信頼を損ない、以後の申出率低下につながります。
産業医面談が実施されても、管理職がその後の動き方を知らないために「役に立たない」という状況が生まれることがあります。以下のNG行動を確認しておくことで、産業医の意見が職場で活きるようになります。
産業医から意見書が出たとき、「確認しました」と受け取って保管するだけでは意見は実行されません。意見書には「就業制限の内容」「配慮事項」が書かれています。受け取ったら5営業日以内に対応の方針を決めるルールを設けましょう。
本人が自ら申し出ることへのハードルは高いです。管理職が「面談してみませんか」と声をかけるのは問題ありませんが、その際「あなたの健康を心配している」「評価には影響しない」という文脈で伝えることが重要です。
産業医が就業制限や業務調整を意見した場合、「それほど深刻ではないだろう」と判断を覆すのは危険です。産業医の意見を無視して本人に何かあった場合、企業の安全配慮義務違反となりえます。
産業医面談が「一度話した」で終わっているケースがあります。面談後は1〜2週間後に管理職が軽く声をかけ、業務量や状態に変化がないかを確認するフォローアップを習慣にします。
産業医の役割は「意見を出すこと」であり「変化を実行すること」ではありません。産業医面談の後に、意見書を受けて人事・上司が何をするかのフロー設計が企業側にない場合、「役に立たず」という状況が起きます。まず産業医面談後の対応フローを三者(産業医・人事・管理職)で合意することが最初の一手です。
産業医には守秘義務があります。本人の同意なく、面談内容や健康情報を会社・上司に伝えることは原則できません。ただし、就業制限等の「意見書」は事業者に提出されます。この点を社員に事前に明示しておくことで、面談申出へのハードルが下がります。
強制はできません。産業医面談(高ストレス者への面接指導)は本人の申し出が前提です。受検率・申出率を上げるには、「人事評価に影響しない」「上司に直接伝わらない」という安心感の周知が最も効果的です。ストレスチェック後に人事からの全社メッセージを出すだけでも申出率が変わるという現場の声があります。
産業医は「就業適合性の判断と意見書」、社内カウンセラー・EAPは「日常的な感情サポートと継続相談」が役割です。産業医は医療的判断のプロ、カウンセラーは傾聴・感情サポートのプロと理解して使い分けると、どちらも本来の機能を発揮できます。
専属産業医は常時1,000人以上(有害業務500人以上)の事業場に必要な常勤の産業医です。50〜999人の事業場では嘱託(非常勤)産業医が一般的で、月数時間の訪問が標準的な関与の形です。嘱託産業医の接点が少ない場合は、衛生委員会・面談以外でも定期的な情報共有の機会を設けることで関与の質が上がります。
腸内環境の改善が注目されています。意欲や感情の安定に関わるセロトニンの約90%は腸で産生されており、腸内環境の状態がメンタルに直接影響します(出典:PMC4728667)。発酵食品の摂取・腸活習慣の導入は、産業医面談に至る前の「①慢性ストレス」段階に介入できる、費用対効果の高い予防アプローチです。
産業医を正しく活用しながら、面談に至る前の体の予防を組み合わせることが、現代の健康経営に求められる二段構えの対策です。sonomono® ウェルネスプログラムは、腸内環境の改善を起点に社員のコンディションを整え、「産業医にお世話になる前の職場」を実現する仕組みを提供しています。


杉本 美智子
健康経営エキスパートアドバイザー監修|認定番号:EX24005148
健康経営エキスパートアドバイザーとして、企業における健康経営の推進・制度設計・従業員エンゲージメント向上に取り組んでいます。本サイトでは、健康経営優良法人の認定取得・離職率改善・組織づくり・ストレスチェックなど、人事・経営担当者が現場で直面する課題に関する記事の監修を担当。

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